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漢文として楽しむ論語 季氏第十六 1/14

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季氏第十六
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季氏(きし)とはこの篇の題名で、冒頭の二文字を取って音読みにしたもの。論語二十篇の第十六篇である。一説にこの篇は齊の論語だったのではないかと云われている。他篇では子曰とあるところが孔子曰となっているなど、やや趣が違う部分があるからである。

1(421) 季氏將伐顓臾…

季氏將伐顓臾、冉有季路見於孔子曰、季氏將有事於顓臾、

【書き下し】
季氏、将に顓臾を伐たんとす、冉有季路、孔子に見えて曰く、季氏、将に顓臾に事有らんとす、

【訳】
季氏が顓臾を征伐しようとしていた。冉有と季路は不安になり、孔子の意見を伺おうと面会して言った。季氏が、顓臾で何か事が有りそうだ、と言っている。

【解説】
冉有は孔子の弟子、姓は冉、名は求、字は子有。
子路も孔子の弟子、姓は仲、名は由、字は子路または季路。
顓臾は国の名、伏羲の後。
小国なのでその政務は魯が面倒を見ていた、要するに属国である。
しかしこのとき顓臾は、魯の政事を季氏が恣にしていたので、従わず、季氏は征伐しようと考えた。
ただし征伐ではなく有事だとしている。
冉有はこのとき季氏の宰=家老で、子路もしばらく季氏に仕えていた。

孔子曰、求、無乃爾是過與、

【書き下し】
孔子の曰く、求、乃ち爾是れ過まてること無きか、

【訳】
孔子が仰った。求=冉有よ、これはそなたが引き起こした過ちではないのか、

【解説】
冉有の言い方が何やら曖昧なので、このように返した。

夫顓臾昔者先王以爲東蒙主、且在邦域之中矣、是社稷之臣也、何以伐爲、

【書き下し】
夫れ顓臾は昔、先王以って東蒙主と為す、且た邦域の中に在り、是れ社稷の臣なり、何を以ってか伐つことを為ん、

【訳】
そもそも顓臾は、昔先王が蒙山の東の地に封じて、その山祭を司らせたので東蒙主と云ったのだ。その上、魯の邦域(領土)の中にある。しかも社稷の臣である。

【解説】
この時代は、社稷を守るのが国家を守ることであって、社稷を破壊されるとその国家が滅びたことになる。
したがって社稷を守り祭祀を行うことはとても重要なことで、顓臾はその社稷がある地だった。
このとき魯国は四分して、季孫氏がその二つを取り、孟孫叔孫がそれぞれ各ひとつを取った。
残るは属国の顓臾のみだった。
属国と云っても反抗していたわけではなく、顓臾は魯の君主に臣服していた。
とすると、征伐する正当な根拠は何もないのだ。

冉有曰、夫子欲之、吾二臣者、皆不欲也、

【書き下し】
冉有の曰く、夫子之を欲す、吾れ二臣は皆欲せず、

【訳】
冉有が言った。季氏が顓臾を欲しているだけで、私たち二臣(冉有と子路)は欲していません。

【解説】
冉有は孔子に責められて、咎を季氏に負わせたのだ。

孔子曰、求、周任有言、曰、陳力就列不能者止、危而不持、顚而不扶、則將焉用彼相矣、

【書き下し】
孔子の曰く、求、周任言えること有り、曰く、力を陳て列に就き、能うまじきときに止む、危うけれども持たず、顛れんとも而も扶けざるは、則ち将に焉んぞ彼の相を用いん、

【訳】
孔子が仰った。求よ、昔、周任という歴史家が次のように云った。臣たる者はその才力を尽くすために位に就き、その力が及ばなくなったときには辞めて去る。危うく転びそうになったときに抱え持って支えず、倒れた時にも助け起こさないのならば、何のために、お付きの人を用いるのだ。

【解説】
孔子は冉有を諭すために例を挙げて説明することにした。
冉有が季氏を諫めるべきなのに、何もしなかったことを責めているのだ。
彼の相とは冉有と子路のことで、ここではお付きの人に譬えている。

且爾言過矣、虎兕出於柙、龜玉毀於櫝中、是誰之過與、

【書き下し】
且、爾が言、過てり、虎兕、柙より出で、亀玉、櫝中に毀れば、是れ誰か過ちぞや、

【訳】
それに、そなたが言うことも間違っている。虎や野牛が檻から出て、貴重な亀や玉が箱の中で壊れたら、これは誰の責任か。

【解説】
兕は野牛のこと。
柙は獣を入れる檻。
亀は占いに用いる亀甲のこと、玉は美しい宝石のひとつ。
櫝は櫃すなわち入れ物=箱のこと。

冉有曰、今夫顓臾、固而近於費、今不取、後世必爲子孫憂、

【書き下し】
冉有の曰く、今夫れ顓臾、固くして費に近し、今取らずは、後世必ず子孫の憂いを為さん、

【訳】
冉有が言った。今の顓臾は堅固な城郭があり、季氏の本領の費邑にも近い。今、征伐しておかなければ、必ず後世の子孫の憂いにもなります。

【解説】
いつか顓臾が季氏の領地の費邑を侵すかもしれず、季氏の子孫はいつまで経っても不安が残るのだ。
冉有は孔子の責めを逃れるのが不可能だと考え、このように季氏のためだとして、自分の咎を逃れようとした。
しかしこの説明により、冉有が最初から顓臾征伐の謀に関与していたことが明らかになった。

孔子曰、求、君子疾夫舎曰欲之、而必爲之辭、

【書き下し
】孔子の曰く、求、君子は夫の之を欲すと曰ことを舎て、必ず之が辞を為ることを疾む、

【訳】
孔子が仰った。求よ、君子は本当の目的を隠し、別の言葉で飾って誤魔化すことを憎むものだ。

【解説】
之を欲すは、季氏が顓臾を支配下に置くために征伐したい、という思惑を指す。

丘也聞、有國有家者、不患寡而患不均、不患貧而患不安、

【書き下し】
丘、聞けり、国を有ち家を有つ者は、寡きことを患えずして、均しからざることを患う、貧しきことを患えずして、安からざることを患う、

【訳】
私(丘=孔子)は、こんなことを聞いている。諸侯や大夫は、人民が少ないことを憂えず、富が平等に分配されないことを憂う。貧しいことを憂えず、為政者と民衆の心が通じ合わなくて安心して生活できないことを憂う。

【解説】
国を有つは諸侯のこと、家を有つは大夫のこと。
これは魯の君主と季氏のことを指す。

蓋均無貧、和無寡、安無傾、夫如是、

【書き下し】
蓋し均しきときは貧しきこと無し、和らぐときは寡なきこと無し、安きときは傾くこと無し、夫れ是の如し、

【訳】
思うに、富が平等に分配されれば貧しいことはなく、人々が和やかに暮らせれば人民が他所へ逃げて少なくなることもなく、人々が安心して暮らせれば、国が傾くこともない。そういうものだ。

【解説】
孔子が理想としたのは貧富の差が少ない社会なのだ。
江戸時代までの日本は欧米と比較して遥かに貧富の差が少ない社会だったが、その根底には論語のこのような言葉の影響があったのだろう。

故遠人不服、則脩文徳以來之、既來之則安之、

【書き下し】
故に遠人服せざるときは、則ち文徳を修めて以って之を来す、既に之を来すときは則ち之を安んず、

【訳】
ゆえに、遠い国の人が従わないときは、礼楽教化して文化レベルを高めれば、そんなところで暮らしてみたいと興味を持ってやって来る。やって来たらその安心して暮らせることを実感させればよい。そうすれば自然と従うようになる。

【解説】
文徳は礼楽教化を云う。
季氏が顓臾を服従させるために武力行使を考えたことに対して、そんなことをしなくても服従させることはできるのだと示したのだ。
ただし季氏は自分たちだけで富を貪るのが目的だから、このような民衆主体の提案を受け入れるわけはないが。

今由與求也相夫子、遠人不服、而不能來也、

【書き下し】
今、由と求與、夫子を相けて、遠人服せざれども、而も来すこと能わず、

【訳】
今、由=子路と求=冉有は、季氏の臣下として補佐していならが、遠い国の人を服従させることも、向こうから自発的にやって来させることもできないでいる。

【解説】
遠人は顓臾を指す。
魯の邦域だが季氏に属さないので遠人と云う。

邦分崩離析、而不能守、而謀動干戈於邦内、

【書き下し】
邦、分崩 離析すれども、而も守こと能わず、而して干戈を邦内に動かさんことを謀る、

【訳】
魯国は三家によって割れ崩れ、三家の臣もしばしば叛くということがあるが、由と求はこれを救って国を守って安定させることもできない。しかも軍隊を使って動乱を起こそうともしている。

【解説】
分崩は、割れ崩れること、魯国を三家が四分することを云う。
離析は離れ裂けること、三家の臣がしばしば叛くことを云う。
干は盾、戈は鉾。

吾恐季孫之憂、不在顓臾、而在蕭牆之内也、

【書き下し】
吾れ恐らくは季孫か憂え、顓臾に在らずして、蕭牆の内に在らん、

【訳】
私はおそらく、季孫の憂いは顓臾のことではなく、季氏の内部の問題、季孫、仲孫、孟孫の三家の勢力争いだと思うのだが。

【解説】
蕭牆は塀のこと、蕭牆之内は塀の内側で、これは季氏を囲う塀すなわち季氏の内部のことを指す。

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最終更新日:令和06年08月13日 学易有丘会
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